木工所立ち上げ

自分たちの手で、岡山の木をかたちに。

「自分たちの手でつくる」。そう心に決めて、私はまず、事業再構築補助金の申請に取りかかりました。とはいえ、コンサルタントに頼むような余裕はありません。商工会議所の無料相談窓口に毎週通い、中小企業診断士の先生に見てもらっては書き直し、また見てもらう。その繰り返しで、半年以上かけて、自分の手で計画書を仕上げました。

はじめての申請は、残念ながら不採択でした。正直、肩を落としました。それでも、親身になってくれた先生に背中を押され、もう一度書き直して次の回に挑戦。今度は採択され、ようやく木工所を立ち上げる道が開けました。

木工所は、どこかに新しく建てたわけではありません。先に立ち上げていた自社物流センターの空いたスペースに、木工機械を据えました。物流のスタッフがそのまま木工も担えるように——実は仲間の中に、以前、木工所で働いた経験を持つ者がいたんです。少しずつ機械をそろえ、自分たちの手でものをつくる場所が、社内に生まれました。

とはいえ、私自身は趣味のDIYしか経験がありません。本格的な木製品づくりを学ぶため、木工で知られる岐阜の家具工房に通い、機械の安全な扱い方から加工の技術までを一から教わりました。職人の世界に足を踏み入れ、木と向き合う時間が始まりました。

つくるなら、地元・岡山の木で。そう考えたのには理由があります。岡山県は、ヒノキの生産量が全国でもトップクラス。けれど、その多くは家の柱や梁といった建築材として使われ、私たちが日々手に取る「道具」になることは多くありません。この地のヒノキの良さを、暮らしの中でもっと感じてもらえないか——そんな思いがありました。

材料は、岡山市で昭和29年から続く材木商・佐々木材木店さんと話がまとまり、岡山県産の木材を仕入れられるようになりました。ヒノキのほか、ウォールナットや栗、さくらといった木も、長く乾燥させた質のよいものを使えます。海外の情勢に振り回されず、地元の木で、安定してものづくりができる。長く品質に悩んできた私たちにとって、それは大きな安心でした。

こうして生まれた木製品のブランドが「kitoen(木と縁)」です。岡山県産ヒノキの丸まな板、木製のドアストッパー、名入れのできる木製しおり。機械では出せない、手仕事ならではの柔らかな質感を大切にしています。2024年には、商標登録も済ませました。

キッチンに立てて並べた、岡山県産ヒノキの丸まな板(大小2枚)
岡山県産ヒノキの丸まな板。kitoenの代表的な木製品。

流行を追い、海外の工場に頼っていた頃から、ずいぶん遠くまで来ました。けれど、根っこにあるものは変わりません。「あったら便利、でもありそうでない」を、自分たちの手で、心をこめてかたちにする。地元の木と職人の手仕事で、長く使える道具を、これからもつくっていきます。

——株式会社WY 代表 靳威